「ボク、昨日からダイエットしてる」
あっぶな…「今夜ラーメン食べに行く?」って誘おうとしたのを、やっぱりウチで作ろうと思い直して麻婆豆腐を炒めていたところだったのである。
最近、寝室での扱いが「抱き枕」と化していることに気づいてしまったのか。
寝室には、以前ツレ彦がUFOキャッチャーに四千円くらいブッ込んで取ったぬいぐるみの「ピヨ彦」がいる。その胴回りがツレ彦とほぼ同じなので、私はツレ彦とピヨ彦を交互に抱きしめ、ひとしきり満足すると即眠る、というのが習慣化していた。
このままでは、我が家の子孫繁栄に支障をきたしてしまう。そんなふうにツレ彦は思ったのだろうか。
それにしても、ツレ彦はたしか去年の秋にもダイエット宣言をしていた。
ツレ彦のダイエットはいつも糖質制限で、炭水化物を減らしたり豆腐メニューを増やしたりする方法なのだけど、いつの間にかモリモリと米を食べるようになっていた。
さらに正月に私の実家に行った時には、雑煮はもちろん正月料理を片っ端から食べており、「お正月でちょっと太っちゃったかも❤」と言っていた。
以前義父の法事でツレ彦の実家に行ったとき、親戚のみなさんが軒並みツレ彦の今の体型だったので、家系…なのかもしれない。生まれた時は金髪で、「誰の子!?」と思ってしまうようなビジュアルだった彼も、しっかりと一族の子孫だったということか。
スリムだった時代の思い出
出会った頃のツレ彦は、たいへんにスリムだった。「線が細くアンニュイな雰囲気」という美しい形容がぴったりの男だったのである。
髪が長いので女性に間違えられることもあり、一緒に銭湯に行った時に女性ロッカーのキーを二つ渡されたことが幾度もある。
繊細なレディースの服が好きなツレ彦と服を共有していたこともあるし、ツレ彦のお下がりのデニムを私が履いていたこともある。
それが、「少しふっくらしてきたかな…」という時を一瞬にして通り過ぎ、完全にリンゴ型のオジサン体型へとバージョンアップしたのである。
迷走するダイエットメニュー
さて、ツレ彦が糖質制限をすると言うので、この機会にダイエットメニューをレパートリーに加えることにした。
①豆腐クリームのカルボナーラ
豆腐をミキサーで混ぜてクリーム状にし、カルボナーラのクリーム代わりにしようという作戦のメニューである。
クックパッドの言う通りに豆腐の水切りをし、ミキサーでクリーム状にし、炒めておいたベーコンときのこと合わせ、コンソメで味を整える、という行程を踏んだのだけど…
熱を入れれば入れるほど「クリーム状」だったものが「そぼろ状」に固まっていく。
卵を早めに入れてしまったのがいけなかったのか。豆腐もあまり熱を加えすぎると固まるのかもしれない。でも熱を入れないとコンソメが溶けないので、熱を入れざるを得ない。
結果的に出来上がったのは、「洋風の豆腐チャンプルをスパゲッティに乗っけたようなもの」だった。
コンソメで味を調えてあるので、意外とマズくはない。でも確実に「豆腐クリームのカルボナーラ」という健康的でおしゃれなニュアンスのする料理とはかけ離れたものに仕上がった。
②豆腐ハンバーグ
ダイエットメニューと言えばこれ。
「肉の量を減らして豆腐を入れれば良い」という安易な気持ちでいたのだけど、どうやら豆腐が多すぎたようだ。不安になるくらいトロトロのタネが出来上がり、つなぎに片栗粉を投入しても全く固まる気配がない。
このまま行くしかない、と思った私は、スライムのような柔らかさのタネをどうにかしてまとめ、フライパンに放り込んだ。
お好み焼き屋さんで、まだタネが固まってないのに無理やりひっくり返した時の「ペシャァ!」という音が響く。
ハンバーグはどうにか固形で焼きあがってくれたのだけど、食べてみるとメレンゲのようなふわっふわの食感で、ハンバーグというよりは「フワフワの『がんもどき』のようなもの」に仕上がった。
ダイエットの様子は随時観察中
私は普段たいへんな慎重派で、出かける時はストーブが消えているか凝視しながら確かめるし、鍵をかけたか不安になって戻ることもよくある。出先ではつねに「財布・定期入れ・携帯」の三点セットを落としていないかを確認するし、忘れ物もほとんどしない。
一方で数字に関しては非常にどんぶり勘定で、「計算」が苦手である。
以前衣装のズボンを縫おうと買った布が、いざズボンが出来上がったら半分余っていて、パッツンパッツンのズボンができたことがある。
料理に関してもそうで、基本的に「量らない」。以前ツレ彦から「お願いだから量ってください」と言わんばかりにキッチンスケールをプレゼントされたことがある。
ツレ彦がダイエットに成功するのが早いか、私の料理の腕が上がるのが早いか。二人とも、試されているところなのである。